不動産相続で配偶者のみに適用される配偶者居住権とその問題点とは
2022.04.29
ご夫婦の間で夫が先に亡くなった場合、妻と子供達で遺産を分け合う相続手続きが必要です。
この時、妻は配偶者のみに適用される配偶者居住権を使う事が出来、住み慣れた自宅を相続する事が出来ますが
この制度には同時に問題点もあります。
そこで、不動産相続における配偶者居住権とはどんなものか、関連する問題点も併せてご紹介します。
配偶者居住権とは
配偶者居住権とは「居住権(自宅に住む権利)」と、「所有権(それ以外の権利)」に分け
居住権は配偶者が相続し、所有権は他の相続人が相続するという仕組みです。
通常、不動産は
「住む権利」と売却した場合に売上金をもらう権利などの
「その他の権利」の2つセットが1つになって構成されています。
不動産の所有権を持っていれば住む事も出来、売却した場合には売却代金を受け取る事も出来ます。
配偶者居住権では権利を「住む権利」と「その他の権利」に分割して別々の人が相続する仕組みです。
住む権利を「配偶者居住権」と言い、その他の権利を「配偶者居住権が設定された所有権」と言います。
配偶者居住権適用の要件
配偶者居住権は被相続人が遺した不動産のうち、一定の要件を満たしたものに適用する事が可能です。
配偶者が自宅に住んでいたこと
配偶者居住権は、元々不動産を所有していた方に相続が発生したタイミングで
そのご自宅に住んで生活していた配偶者にのみ認められますので、別居をしていた夫婦間では認められません。
登記をすること
配偶者居住権は不動産の登記をしなければ効力を発揮出来ません。
遺産分割協議で配偶者居住権を利用して相続する事が決まっていても
登記を忘れていると所有権を持っている人物が勝手に売ってしまう事も出来てしまいますので注意が必要です。
配偶者居住権を利用した後に配偶者が死亡した場合
配偶者居住権を使って相続した後にその配偶者が死亡した場合、配偶者居住権は消滅します。
この場合、配偶者居住権が設定された所有権を相続していた相続人が、その不動産の権利を全て所有する事になります。
配偶者居住権のメリット
今住んでいる家に住み続けることが出来る
夫婦2人で持ち家で生活していた場合、被相続人が亡くなった後は多くの場合、配偶者が自宅を相続します。
しかし、子供夫婦と同居していて相続がスムーズにいかない事が想定される場合
配偶者は自宅に住み続けられるのか不安に感じる事もあるでしょう。
しかし、配偶者居住権を使えばこれまで通り自宅に住み続けられ、住む家を失ってしまう心配はありません。
相続財産が減らない
遺言で財産分与に関する指定が無い限りは財産は法定相続人に分けられる事になります。
その時、持ち家も相続財産の1つとなりますが、不動産は一般的に相続財産の中でも価値が高いため
家を相続するとその他の相続財産が大幅に少なくなってしまい、現金を相続できない事があります。
しかし、配偶者所有権を利用すれば
配偶者は「不動産の所有権」ではなく「不動産の居住権」を相続する事になります。
代償金を支払わずに済む可能性が高くなる
もし、不動産の評価額が配偶者の法定相続分より多い場合
配偶者は他の相続人に対して「代償金」を支払う義務を負う事になります。
しかし、配偶者所有権を行使した場合、不動産所有権よりも相続する価値が低くなり
代償金の支払いをせずに済む可能性が高くなります。
配偶者居住権のデメリット
不動産の譲渡・売却は不可
配偶者居住権は「住む権利」であって「所有権」はなく所有者ではない為
自宅を売却したり物件を譲渡する事は出来ません。
配偶者居住権は「自宅に住む意思がある」という事が前提の制度となりますので
引き続き自宅で生活する場合にのみ適用されます。
また、高齢になって老人ホームに入居するので自宅を処分したい、という希望があったとしても
配偶者本人が自宅を譲渡・売却する権利は持っていません。
所有者の税負担が大きくなる
配偶者居住権を取得した場合、建物の通常の必要費を負担する義務を負いますが
必要費には固定資産税も含まれます。
固定資産税は建物に対する税のみとなりますので、土地の固定資産税は所有者が支払う義務を負う事なり
所有者にとって大きな負担となります。
法律上の配偶者しか制度を利用出来ない
配偶者居住権を利用出来るのは婚姻関係を結んだ法律上の配偶者のみです。
内縁の妻または夫には相続権が与えられませんので注意が必要です。
現代では事実婚など、婚姻の在り方が多様化していますが
配偶者居住権を利用出来ない可能性が高いため注意が必要です。
その他の配偶者の優遇措置
相続における配偶者の優遇措置は配偶者居住権の他にもいくつかあります。
賢く利用して節税をしましょう。
配偶者控除(配偶者の税額軽減)
配偶者が引き継ぐ財産が1億6,000万円以下、もしくは法定相続分相当額のいずれかで
多い金額まで相続税が0円となる制度です。
配偶者控除は配偶者が被相続人の財産形成に大きく貢献してきたことや
配偶者の生活を保障するという意図などが考慮されています。
この制度により配偶者の相続税の納税が必要になるケースは少なくなります。
・配偶者控除の条件は内縁関係ではなく戸籍上の配偶者であること
・遺産を隠蔽していないこと
・相続税が0円になっても相続税申告書を税務署に提出することです。
また、配偶者控除は二次相続で子供にデメリットがある場合があり
将来発生する子供の相続税の納税負担が大きくなる可能性がありますので使い過ぎには要注意です。
小規模宅地等の特例
亡くなった方の自宅に使われていた土地に対し、一定の要件を満たす場合には
相続税を計算する際の土地の評価額を最大80%減額する制度です。
不動産の実際の価値を減らすことなく相続税の計算をするときだけ評価額を減額することができます。
この制度は厳しい条件が設けられていますが、配偶者は無条件で適用されます。
おしどり贈与
婚姻期間が20年以上の夫婦であれば居住用の不動産や自宅を購入する資金を配偶者に贈与した際に
かかる贈与税が2,000万円まで非課税になる制度です。
相続開始前3年以内の贈与は相続時に相続財産として戻さなければなりませんが
おしどり贈与をされた不動産は対象外となります。
配偶者が相続で特例を使う場合は計画的な利用をすることが大切
不動産相続で使える配偶者居住権についてご紹介しましたが
相続では配偶者にはさまざまな優遇措置が設けられています。
しかし、配偶者が優遇措置を適用する際に過度に特例を適用してしまうと
その配偶者が亡くなった場合に二次相続が発生し、お子様に多額の相続税が発生する可能性もあります。
相続の特例の利用はご自身のケースに合わせて適切なものを活用する事が大切です。
配偶者の不動産相続について、ご不明な点等がありましたら
相続に強い専門家に相談して優遇の受け方の方法を決めていく事が大切です。
まだ相続の事を考えるのは早い、とお考えの方でもその時になって慌てる事の無いよう
あらかじめ専門家に相談してご自身の場合はどうなるか情報を集め、想定しておくと安心です。
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